村田真のXMLブログ

日本人で唯一W3CのXMLワーキンググループに参加しXMLの標準化プロセスに携わったXMLの生みの親、村田真さんのブログです。

2006年12月 アーカイブ

解説:Open Document Formatの標準化について

この記事は、社団法人 情報処理学会 情報規格調査会のNews Letterのために執筆したものであり、Webでもすでに掲載されている。許可を得て、ここに転載する。


ワードプロセッサやオフィスソフトは広く普及して久しい.これらの間で文書を交換するために文書フォーマットを標準化することが1980年代から試みられてきた.しかし,ハイパーテキストのフォーマットであるHTMLを除いて,文書フォーマットの標準化は失敗を繰り返してきた.例えば,ODA (ISO/IEC 8613)は普及せず,まもなく廃止される見込みである.SGML(ISO 8879)は,マニュアルなどには用いられたが,ワードプロセッサやオフィスソフトの間での文書交換には用いられていない.

 ところが,Open Document Format(ODF)がOASISによって制定されるに及んで,状況は変わってきた.ODFに対抗して,マイクロソフト社はOffice Open XML(OOXML)をEcmaに提出している.両者の競合関係は,メディアでもよく取り上げられるようになっている.

 以前の試みと比べると,ODFを取り巻く状況は以下の点で大きく異なる.

実装先行
ODFは,Open Officeというオフィスソフトの文書フォーマットが元になっている.つまり,ODFでは,仕様よりまず実装が先に存在した.一方,以前の試みでは,本格的な実装が現れずに終わることが多かった.


企業の利害

マイクロソフト社によるオフィス製品の独占状態に対抗することが,ODFを推進する側(サンマイクロシステムズ社やIBM社など)の目的であることは間違いない.以前の試みは,どの企業にとっても中立的な仕様を目指したが,その分だけエネルギーに欠ける憾みがあった.

囲い込みを嫌うユーザ

ワードプロセッサやオフィスソフトの利用者は,以前とは比べ物にならないほど多い.その中には,特定の製品に囲い込まれることを嫌う利用者もいる.とくに,国民に分け隔てなく情報を公開する義務をもつ電子政府は,文書フォーマットの標準を求めるようになってきた.マサーチュセッツ州がODFを採用することを打ち出したことが,ODFが注目される大きな契機となった.

 ODFの標準化の道筋を簡単に振り返る.もともと,ODFはサンマイクロシステムズ社から,2002年12月に標準化団体 OASISに提案された.OASISのOpen Document Technical Committeeにおいて,ODF 1.0が制定され,2005年5月にOASIS規格となった.

 OASISは,ISO/IEC JTC 1によってPAS Submitterとして承認されているためPAS手続が利用できる.ODF 1.0は,PAS手続によって2005年11月にJTC 1に提出され,ISO/IEC DIS 26300となった.JTC 1はDIS 26300を6ヶ月投票に付すとともに,SC 34に割り当てた.この投票ではすべての国が賛成であったため,コメント審議ミーティングを開催せずにISO/IEC規格となることが,2000年6月の SC 34ソウル会議で決定した.今後は,PAS SubmitterであるOASISがコメント処置文書を作成し,最終的なテキストを準備する予定である.

 DIS投票において,すべての国が賛成投票をしたのは,ベンダ固有の閉ざされた文書フォーマットからオープンな文書フォーマットへの動きを支援するためであると筆者は思う.ここで言うオープンとは,公開された場で議論され,決定権が非営利の委員会にあり,RAND以外の知的所有権が見つかっていないことを意味する.ODFは,オープンな文書フォーマットであることは衆目が一致するが,決して完璧な仕様ではない.普通なら,技術的なコメントをつけて反対し,コメントが受け入れられれば賛成に回るとする国が現れるところである.

 ODFが普及するかどうかはまだ明らかではない.現在,ODFの対抗馬として,Office Open XML(OOXML)がEcmaにおいて審議されている.これはマイクロソフト社がEcmaに提案したものが元になっている.Ecmaは,Office Open XMLをEcma標準とし,2006年12月にはJTC 1に迅速化手続きによって提出する予定である.

 しかし,ODFの出現によって,オープンな文書フォーマットへの動きは決定的なものになったと考えられる.SC 34ソウル会議でも,Ecmaの代表は,Office Open XMLがオープンな文書フォーマットであることをしきりに主張していた.

 OOXML が6ヶ月投票に付されたとき,日本として賛成するのか反対するのかは決まっていない.しかし,オープンな文書フォーマットが,日本国内の利用者や生産者にとっての利益であることは疑いない.まず必要なのは,OOXMLがオープンであるかどうかをきちんと確かめることだろう.

 ODFもまだ完成したわけではなく,アクセシビリティなどの課題を数多く残している.今後もOASISで拡張され,JTC 1へのPAS Submissionによって再度投票に付されるものと思われる.

 なお,ODFはJIS化を予定しており,2006年7月から原案委員会が活動を開始する予定である.

参考資料へのポインタ

http://en.wikipedia.org/wiki/OpenDocument
http://en.wikipedia.org/wiki/Open_format
http://en.wikipedia.org/wiki/Open_standard
http://www.consortiuminfo.org/standardsblog/
http://www.oasis-open.org/committees/office/

投稿者: 村田 真 日時: 2006.12.10 | | コメント (0) | トラックバック (1)

博士号審査に出席して

フランスで、XMLに関する博士号の審査に参加する機会があった。旅費は向こうもちである。

たぶん、こんな機会は滅多にないことだと思う。記録に残しておくため、一連の記事を投稿するつもりである。

投稿者: 村田 真 日時: 2006.12.13 | | コメント (0) | トラックバック (0)

審査を依頼してきたのは...

私の旧知のVincent Quintである。INRIAでAmayaなどを研究するグループのリーダを勤めている。W3Cでは、現在はTAGのco-chairであり、以前はW3Cチームの一員であった。私とは、WOODMAN '89 Workshop on Object-Oriented Document Manipulationというワークショップの頃からの知り合いである。なんと、20年近くも、お互いこの分野にいることになる。

博士候補者は、Pierre Genevèsである。商用のイメージ編集ソフトを独力で作成した経験からも分かるように強力なプログラマである。XMLの分野で用いられる数学理論をたいへんよく理解している。

投稿者: 村田 真 日時: 2006.12.15 | | コメント (0) | トラックバック (0)

XMLとJSON

最近は、XMLに対抗する技術としてJSONを聞くことが増えている。

私は、JSONにまったく反対しない。JSONは、プログラム内で用いられるデータのわかりやすいテキスト表現であることに徹している。XMLのほうがより汎用的(とくに文書用)で拡張性があるが、JSONのほうがより効率的な場合があることは疑いない。正直言うと、JSONがXMLの荷を肩代わりしてくれるほうが、私には有難いぐらいである(W3C XML Schemaで扱える範囲のXMLは、相当JSONに侵食されるだろう。)。

なお、このエントリは、Tim Brayの記事をきっかけとして書いた。XML陣営でJSONを否定する人は誰もいないとTim Brayは言う。そんなものだろうと私も思う。

追記: Should You Choose RELAX or JSON Now?という記事を偶然見つけた。

投稿者: 村田 真 日時: 2006.12.26 | | コメント (1) | トラックバック (0)

OOXMLの審議への参加希望か?

ISO/IEC JTC1 SC34に参加する国が急増している(参加国のリスト)。SC34は閑古鳥が鳴いていたが、P-memberが急に増えた。

原因ははっきりしないが、一つの可能性として考えられるのが、OOXMLの審議への参加である。OOXMLが、ISO/IECにfast-track手続きによって提出された場合、ほぼ間違いなくSC34に割り当てられる。JTC1のP-memberなら、投票にもコメント審議にも参加できるが、SC34のP-memberであるほうが便利なことは間違いない。

追記: 加わったのは、インド、スイス、ドイツの三カ国。

投稿者: 村田 真 日時: 2006.12.27 | | コメント (0) | トラックバック (0)

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